最恐の歯周病菌が 恐れられるふたつの理由
歯茎の細胞を壊して歯茎のなかに棲みつくPg菌
Pg菌の性質を説明するときに、歯科医は最恐と形容することがよくあります。 なぜか最恐といわれるのか? その理由は大きくふたつあります。
ひとつは、Pg菌がバイオフィルム以外の歯周組織に生息できる細菌だということです。
歯周菌は酸素を嫌う嫌気性の細菌です。通常,歯周病菌は歯肉縁より下に形成したパイオフィルムのなかで身を守りながら繁殖します。
しかし、Pg菌に限っては歯の周りの上皮細胞、すなわち歯茎のなかに自分で侵入できます。歯茎の細胞を破壊し、歯茎のなかに棲みついてしまうのです。
歯の表面や歯周ポケットのごく浅い部分であれば、歯磨きなどで汚れや細菌を自分でケアすることができます。しかし、歯茎のなかに侵入してしまった細菌は、自分では退治できません。歯周病は自覚症状が伴いづらいことも相まって、どんどん歯周病が進行していくことにつながる のです。
タンパク質を分解する酵素「ジンジパイン」とは?
ふたつ目の理由は、Pg菌がつくり出す強力なタンパク質分解酵素「ジンジパイン」の存在です。タンパク質分解酵素とはその名の通り、タンパク質を分解する酵素です。
お肉を柔らかくする調味料をイメージしていただくといいでしょう。お肉はタンパク質を豊富に含む食材です。お料理好きな人なら、お肉を焼く前にパイナップル果汁に漬け込んだことがあるかもしれませんね。パイナップルにはタンパク質分解酵素が含まれています。このタンパク質分解酵素がお肉のアミノ酸を細かく切ることによって、お肉が柔らかくなるのです。
Pg菌が生み出す「ジンジパイン」も、お肉を柔らかくするパイナップルと同様の働きをします。つまり、ジンジパインが歯茎のなかのタンパク質を分解しながら歯周組織を破壊し、さらに歯周ポケットを深くして歯周病を進行させます。
これが粛々と進むわけですから、とても恐ろしいですよね。
歯周ポケットのなかには、歯肉から滲み出た「歯肉溝滲出液」と呼ばれる体液が流れているのですが、その成分には「アルブミン」と呼ばれるタンパク質が多く含まれています。ジンジパインがアミノ酸をどれほどの速度で分解するのかを調べるために、ジンジバインとアルブミンを混ぜ合わせた実験があるのですが、わずか 4時間ほどでアルブミンが細かいアミノ酸レベルまで分解されることがわかりまし た。
これは、歯周組織を壊すジンジバインの力がとてつもなく強力であることを物語っており、Pg菌が恐れられる理由のひとつとなっているのです。
(認知症になりたくなければ歯周病を治しなさい/あさひ出版:福田真一著)